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春待つ武蔵水路

春待つ武蔵水路

 武蔵水路は、埼玉県行田市須加地区(標高24m)で利根川の水を取水し、同県鴻巣市糠田地区(同12m)で荒川に放流する、延長14.5㎞の人工水路です。緩やかな勾配ながらも、水路幅12~14mほどに対して導水量は最大50㎣/sで設計されており、時に激しい急流を思わせるほどの水流を見せます(表紙写真:鴻巣市赤見台地区)。
 この武蔵水路は、高度経済成長下の首都圏において急速に拡大した水需要に対応するために建設されました。当時の東京は、著しい人口増加と生活様式の近代化に伴って都市用水の需要が増大し、真夏には給水制限も実施されるなど、もはや多摩川だけでは賄えない状況となっていました。他方、隅田川は汚濁が著しく進行していました。折しも東京オリンピック(1964年)開催を間近に控え、この深刻な水不足の解消と河川浄化は喫緊の課題であったわけです。
 そこで構想されたのが利根川の水を利用することでした。1962年8月に『利根川水系における水資源開発基本計画』が閣議決定され、さらに翌1963年3月には「利根導水路建設事業」が追加掲上されて、利根川水系の総合的な水資源開発計画の一環として「武蔵水路」は建設が始まりました。工事は急ピッチで進められ、着工(1964年1月)から4年後の1968年3月には利根大堰も完成し、利根導水路建設事業は完了しました(写真1)。
 通水から約50年を経た2016年、大規模な改築工事によって武蔵水路は生まれ変わりました。引き続き東京都・埼玉県の都市用水を供給するとともに、内水排除を目的とする水門・放流口が増え、周辺地域の浸水時被害を軽減する役割が強化されました。また、水路に沿う管理用道路や歩道も整備され、県営さきたま緑道とあわせてサイクリングや散歩を楽しむ地域住民に利用されています。沿道が満開の桜で彩られる春は間近です。

写真1

写真1:行田市須加地区の大分水工

参考資料:
・独立行政法人 水資源機構 利根導水総合事業所ホームページ
 (https://www.water.go.jp/kanto/tone/index.html 最終閲覧日:2022年3月1日)

・「利根導水路建設事業」~東京砂漠をいかに乗り越えたか~
(「インフラ整備70年講演会」第22回講演会、(一社)建設コンサルタンツ協会ホームページ https://www.jcca.or.jp/infra70/ 最終閲覧日:2022年3月1日)

(2022/2 岡村撮影)

撮影場所

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