今月の地理写真
近年,経済的に急成長するモンゴルでは,首都・ウランバートルおよびその近郊で急激な都市化が進み,伝統的な“遊牧型”の生活から“定住型”への暮らしに切り替わる姿が見られるようになった.草原の広がる郊外では,購入した土地に一時的にゲル(パオ)を建て,資材の準備ができ次第,木材家屋を建てるという“家屋の移行の様子”がよくわかる景観が広がっている(写真1).
“ザイサン・トルゴイ(ザイサンの丘)”は,ウランバートルの南側に位置し,市街地やTuul川を一望できる小高い丘である.600段ほどの階段を上がった頂上には,1971年に建設されたソビエト兵士の記念碑がある.人民革命(1921年)およびハルハ川の戦い(1939年)でのソビエトでの援助に友愛を示すもので,円形の色鮮やかなモザイク画(写真2)が登頂者を出迎える.この丘の周辺(特に南側)では,地主が銘々にマンションやアパートを建設するため,建物は様々な方向を向いて乱立した.ザイサンの丘周辺のみならず,市街地の多くで統一性の図られていない街の景観を生むこととなってしまった(表写真).
Googleが公表する航空写真を見ると,本地域では撮影した2013年以降も開発が進んで建造物がさらに増えていることがわかる.2013年当時,食生活の変化や急速な経済発展にインフラの整備が追いつかず,大気や水質問題,ゴミ問題,健康被害など,複数の社会問題を同時に抱えていた.目に見えるかたちで国が大きく変わるその瞬間に“立ち会えた”身としては,再訪の機会を得て,また改めて国の変化を五感で捉える楽しみがあるのだろう.
写真1 ゲル(パオ)と木造家屋が入り混じる郊外
写真2 モザイク画の一部
写真3 丘の北東側.Tuul川も望める
(2013/10 宇津川撮影)