今月の地理写真
長野県須坂市にあるリワイルドニンジャスノーハイランド(撮影当時は峰の原高原スキーリゾート)のゲレンデを夏に撮影した写真である。スキー場と聞いて思い浮かべる景観としては銀世界が一般的だろうが,当然,夏にもスキー場はある。レジャーとして,スキーが隆盛を極めた1990年代前半までは,冬季のみの営業で「一年分の稼ぎ」を得ることも不可能ではなかったが,スキー・スノーボード人口の減少にともない,周年的な利用が期待されるようになった。現在では,夏季には花畑やキャンプ場などの利用を開始するなどの取り組みがみられるものの,それらの観光需要も限定的であり,全てのスキー場が対応できるわけではなく,閉鎖されたスキー場も多い。この写真のリワイルドニンジャスノーハイランドも,廃止の危機にあった峰の原高原スキーリゾートの経営権を新たな法人が引き継いでなんとか営業を継続している。
「そんな無理にスキー場を維持しなくても,閉鎖されれば,コースが森に戻っていいのでは」という意見も予想される。確かに森林という植生に戻すのも一案であるが,人工的に切り開いた斜面を自然な植生遷移に委ねても,森林として育ちにくい。森林となる前に大雨などで斜面の土砂が流出するリスクの方が高い。また,日本を含めた先進国の価値観では「草原より森林」というような森林を無批判・無前提に良きものとする風潮もある。しかし草原でしか生きられない生物種も多数あり,なかには草原でしか生きられない菌には創薬可能性を秘めたものも多数あるようだ。こうした観点から,冬季にスキー場として利用するために,夏季に草刈りをして,草原という植生を維持することも肯定されても不思議ではない。ただ,現代の社会・経済的情勢からはスキー場の将来は厳しい。観光という観点,森林を絶対視する基準からの植生に対するまなざしと異なる観点から,草原維持に向けたスキー場の役割という研究も可能になると考えられる。
(2019年8月15日 吉田国光撮影)