今月の地理写真
この写真はシンガポールのPasir Panjang Wholesale Center である。日本在住者がシンガポールと聞くと,マリーナベイサンズやマーライオンなど,生活感のない煌びやかな観光地を思い浮かべることだろう。観光客の多くはローカルな生活に対して思いを馳せることはあまりないが,シンガポールにも当然,ローカルな生活を営むための施設は点在している。このマーケットはその一つだ。Wholesale と称されていることから,もちろん業者向けの販売が中心となっているが,個人客も訪れて,夕飯の食材を購入している(写真2)。客層も白人から中国系(現地ではMandarinと称される),インド系など,るつぼである。
(写真2)
売られている食材は他民族国家であるシンガポールらしく,見慣れないものから(写真3),見慣れたもの(写真4),「?」というもの(写真5)まで様々だ。
(写真3)
(写真4)
(写真5)
とくに写真5には「Japanese Cucumber」と「Produce in Malaysia」記されている。これはマレーシア産の日本でよくみる“細いキュウリ”というもので,日本から輸入されたものではない。その他にもJapanese Sweet Potato(いわゆるサツマイモ)など日本で品種改良された作物もみられる。マーケットで売られるものは,農産物であってもモノに限定されず,知財が商品となって流通していることの証左である。現代社会の経済活動で最も覇権を握るセクターはモノではない。モノに付随する“知”もセットで捉えることで,農産物をめぐる経済地理学の新たな地平が開けるだろう。
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(2018/12 吉田国光撮影)