今月の地理写真
アメリカ(ワシントン州)カスケード山脈に位置する、St. Helens(セントへレンズ)火山は、数十万年前から繰り返し爆発的な噴火や溶岩流の流出を行い、富士山型の美しい円錐形の火山に成長した。その標高は約3,000 mであった。また北麓のSprit Lakeは人気のリゾート地であった。
しかし、1980年5月に、小規模な噴火活動のさなか、マグニチュード5.2の地震を引き金として、その北側の山体が大規模に崩壊し、サージと呼ばれる爆風と、岩屑(がんせつ)なだれが北麓を襲った。さらに下流には大規模な泥流が流下した。山体が崩れたことによって地下にあったマグマが出やすくなり、プリニー式と呼ばれる大規模な爆発的噴火に移行し、最後に火口に粘り気の高いデイサイト質の溶岩がドーム状の地形を形成した。崩壊地は深さ600 m、直径2 kmに及び、最高標高は約2500 mまで低くなった。一連の噴火災害で、火山学者を含む数十人が犠牲になったと推定されている。
写真は、セントへレンズ火山の北西側山麓にある、Hummocks Trailと呼ばれるトレッキングコースから見たセントへレンズ火山である。山の中間のへこんだ部分が、先述した1980年の崩壊地である。
トレイルの周辺には、岩屑なだれの堆積物が作る「流れ山」(hummock)と呼ばれる小丘が多数見られる。流れ山は、崩壊した山体が大きなブロックとなって流下し、流れが弱くなったところに停止したものである。また周囲には細粒の崩壊物が堆積している。これらは泥流となってNorth Fork Toutle Riverを流下し、さらにコロンビア川に至っている。
現在、セントへレンズ火山一帯は、国立公園として多数の解説看板が設置され、またビジターセンターなども整備され、観光客が火山と地形・地質,生物,環境を理解しやすいよう工夫されている。
(2017/8/16 大石撮影)