今月の地理写真
オーストラリアの最大都市,シドニーの中心部から西へ約40km,フェアフィールド市カブラマッタ(Cabramatta)は,ベトナムを中心にカンボジア,ラオスのインドシナ出身者が多く住む地域である。1975年,ベトナム戦争の終結後,インドシナ三国の社会主義化に伴い,大量の難民が命がけで海外に脱出した。植民地宗主国であったフランス,ベトナム戦争に積極的に介入したアメリカ合衆国,そして南ベトナムに派兵したオーストラリアも,インドシナ難民を受け入れ,多数の難民がオーストラリアに定住した。
これらインドシナ難民の中には,先祖は中国出身である華人が多く含まれている。ベトナム戦争終結以前,インドシナ三国で経済的に重要な役割を果たしていた華人は,戦後の社会主義化により,自由や財産を奪われ,迫害され,海外脱出の道を選ばざるを得なくなり,その一部がオーストラリアに逃げてきた。
カブラマッタには,世界各地のチャイナタウンでみられる「牌楼(パイロウ)」と呼ばれる中国式の門が建てられている。その周囲の商店の看板には,中国語も併記されている。シドニーの中心部にはチャイナタウンがあり,カブラマッタはシドニー第二のチャイナタウンとも呼ばれている。しかし,ここでは中国語はほとんど通じない。自分たちが華人であるという難民の誇りやアイデンティティが,牌楼の建設や看板の中国語併記に表れているのである。
フェアフィールド市が設立したカブラマッタの案内板
竜の絵とともに,“Discover a taste of Asia”と書かれている。
インドシナ出身者が好む新鮮な野菜や果物を売る露天商
カブラマッタの通りを歩くと,ここがオーストラリアであることを忘れてしまいそうである。
大衆的なベトナム料理店
カブラマッタには,ベトナム料理店やベトナム式サンドイッチの店などが目立つ。
ベトナムの国民食,フォー(pho)
フォーの麺は米粉から作られた平たい麺である。
写真は,上記のベトナム料理店の牛肉(ボー)入りの「フォー・ボー」(約900円)。
運ばれてきた時点では,麺の上の牛肉は半生状態で赤いまま。
自分好みで,小皿のもやし,バジルなどをフォーに入れて,ライムを絞る。
(2020/2 山下清海撮影)