地誌とは何か。日本各地について記述した風土誌、あるいは特定の地域の地形や気候、名所旧跡、物産など、自然・人文の諸事象を記述した百科事典的なものというイメージがあります。しかし、学問としての地誌学は、特定地域における自然(地形・気候・水文など)と人文(都市・経済・歴史・交通など)の諸事象の相互関係を総合的に考察し、地域的性格を究明することにあります。この点で、自然や人文のテーマごとに地域を分析する系統地理学とは異なります。ただし、地誌学と系統地理学は補完関係にあります。
地誌学の研究では、ある特定の地域について記述・説明していきますが、その前提として「地域」とは何かを考える必要があります。また、「地域」のどの事象を取り上げて説明すれば地域的性格をより正確に説明できるのかを考える必要もあります。地誌学では、研究対象とする地域のスケールを大陸レベルから国家レベル、都市内のコミュニティレベルにまで設定します。具体的には、アジア地誌、日本地誌、熊谷地誌など、さまざまなスケールの地誌を考えることができます。
とはいえ、古い時代を研究することばかりが歴史地理学ではありません。現在の地域が抱える問題に対して適切な処方箋を出すためには、時間を遡り、発生から今日に至る過程をふまえて診断することが不可欠です。歴史地理学が活躍する場は広範囲に用意されているのです。