地球上のさまざまな地域や時代において人間が育んできた文化事象を対象とし、その多様性や差異、形成過程などから地域的パターンや地域の特徴を明らかにするのが文化地理学です。
ところが、“文化”という言葉にはいろいろな意味と用途があります。文化を人間生活の営み全般と理解すると、文化地理学が扱う事象は極めて広範囲に及ぶので、かつては人文地理学と同義的に理解されたこともありました。しかし、現代の地理学の体系としては、経済地理学や社会地理学などと並ぶ系統地理に位置づけられ、より具体的には言語地理学や宗教地理学などによって構成される分野と理解されています。
近年の文化地理学では、文化の空間的広がりに注目する文化地域(culture region)、人間と環境との関係性に着目する文化生態(cultural ecology)、文化の地表面への刻印である文化景観(cultural landscape)、イノベーションがいかに伝播・普及するかに関心をもつ文化伝播(cultural diffusion)、さらには文化要素間相互の結びつきを論じる文化統合(cultural interaction)、という5つの視点が提起されています(高橋伸夫ほか編(1995):『文化地理学入門』東洋書林)。したがって隣接学問分野との接点も重要で、とくに民俗学・文化人類学・歴史学・社会学などの研究成果との交流が不可欠な、広い領域をカバーする魅力ある分野と言えます。
右の写真は山形県真室川町赤倉集落における山神社。この地域では、農耕神としての山の神を祀っています。春は山から里に降りて「田の神」となり、秋の収穫がすむと山に戻り「山の神」になるとされ、いわゆる去来神的性格を有しています。