講義体験/地理基礎巡検

地理基礎巡検(1年授業)

担当教員:小松陽介(専門分野:自然地理学・水文地形学)

地理基礎巡検は、1年生の科目です。実習する地域や授業内容はクラスの先生によって異なります。ここでは、小松先生が担当したFクラスの授業を再現します。

現地では、下記のようなフィールドワークの基本的な作業を習得します。

  1. フィールドノートの書き方
  2. スケッチの描き方
  3. ルートマップの作成
  4. 効果的な写真の撮影方法
  5. 見学地での聞き取り調査
  6. レポートの書き方

またこの授業では、野外での体験を通じ4年間の大学生活で学ぶ方向性を定め、かつ講義科目や実習科目を履修するモチベーションを高めるという目的も持っています。もちろん入学して間もない時期なので、新しい友人と親睦を深めることも考慮し、学生共同で作業したり、話し合える時間を持つように配慮しています。この他にも以下のような地理基礎巡検が開講されます。

地理基礎巡検の例

No. 場所 巡検タイトル
1 東京都千代田区周辺 東京の下町の変容の観察
2 東京(神田~秋葉原) 江戸から東京へ
3 埼玉県寄居町 谷口集落の景観形成-埼玉県寄居町-
4 東京都千代田区周辺 “0”(ゼロ)と発祥地からみた東京
5 川越 小江戸川越の自然と街の発達
6 長野県軽井沢町 避暑地の形成
7 鎌倉と江ノ島 湘南の観光地の性格
8 皇居周辺・銀座・新宿・渋谷 東京の都心と副都心
9 秩父鉄道沿線 秩父鉄道の発達と地域との関わり
10 横浜港 イメージとしての「港町横浜」と実体
11 東京都内 東京湧き水探訪-大都会東京の自然を探る-
12 埼玉県深谷市 宿場町から工業都市へ-深谷の近世・近代-
13 東京都千代田区・台東区周辺 大地と低地と坂に見る江戸・東京
14 熊谷 熊谷の記憶をたどる
15 行田 行田の記憶をたどる
16 品川~大崎 江戸時代へタイムスリップしてみよう
17 横浜市臨海部 横浜ベイエリアの変容の観察
18 東京西郊 武蔵野の都市化
19 宇都宮市~鹿沼市 大谷石と鹿沼土のふるさと
20 川崎~横浜 京浜の工業地域を歩く
21 熊谷市街地および郊外 熊谷市の気候環境
22 上野の山と国立科学博物館 東京・上野付近の自然環境の成り立ちと国立科学博物館

今回の例

今回のフィールドワークは5月中旬に行われました。2・3・4年の上級生も6名参加して新入生にアドバイスをしてくれるなど、和気あいあいとした雰囲気で行われました。主な行き先は熊谷キャンパスに程近い秩父盆地です。

フィールドワークでは、地形や植生などの自然地理学的要素と、土地利用や地場産業などの人文地理学的要素を観察し、幅広い視点の重要性を学びます。大型バスで移動しながら、いくつもの見学地点で先生の説明を聞き、そしてできる限り、自ら体験することを心がけてください。

雨に濡れたり、土で汚れたりすることに戸惑わず、ハンマー片手に自ら進んで歩く。まずは何気ない一歩から始まります。

では、熊谷キャンパスを出発してフィールドワークを始めましょう!

1.深谷断層

一見ただの坂道のようですが、南側(写真奥)の土地が隆起している様子を観察することができます。幹線道路では地形改変されていますが、狭い路地では急勾配のままであることがわかります。

ここでは崖(急坂)の比高や勾配などを測りました。一ヶ所にとどまらず色々な所を観察しましょう。


  • 首都圏活構造図「深谷」より

2.浦山ダム(秩父さくら湖)

バスで秩父市街に移動して来ました。交通渋滞も無く到着したので浦山ダムを見学しましょう。ここではダムの構造をはじめ、利水・治水などの利用目的などについて説明をしました。

また、ダムを建設するためには地形・地質条件も重要ですが、どのような条件が重要であると思いますか?

ここの地形は山が両側から迫る狭窄部であり(写真左)、ダム建設コストを低く抑えられます。そのほか岩盤が頑強で水が浸透しにくいことも大切です。

3.石灰岩加工工場見学

秩父といえばセメントの材料となる石灰岩の山地で有名です。昼食後、秩父石灰工業(株)の御厚意で、消石灰や生石灰などの加工工場、砕石工場などを見学させていただきました。

学生からは、時間を延長してもらうほど多くの質問があり、良かったと思います。

右の写真は石灰岩を採掘している武甲山です。

4.美の山公園からの地形観察

美の山公園からは秩父市街や武甲山を一望することができ、夜景スポットとしても人気があります。

この展望台から、秩父市街のある段丘群を観察しスケッチをしました(写真右)。そして、秩父盆地がどのようにして形成されてきたのかについて講義を行いました。

また、公園のある丘陵斜面や東側にある牧場が、山地の中では比較的勾配が緩やかであることがわかります。実はここは地すべり地なのです。実際の地形を地すべり地形図と照らし合わせて観察しました。

5.談球面の土地利用、荒川支流の蛇行河川と地質

桑の葉を皆さんは見たことがありますか?この付近の段丘上には桑畑が多く見られます。

明治44年発行の地形図によると(左下の図)、桑畑の記号が段丘に数多く見られ、古くから養蚕業が盛んだったことがわかります。古い地図を利用することは地域の成り立ちを知る一つの方法です。

  • 明治40年発行迅速測図
  • 1:2,500秩父市都市基本図から作成した段丘分類図

6.植生観察とグループ調査

写真は山に見えますが、実はこれ、秩父盆地内に分布する最も高い段丘なのです。たまたま森林が伐採されて眺めが良かったので、段丘面の土地利用と森林内における樹木の構造を観察をしました。

せっかくなので道なき道を進もうと、この斜面を下りました。野山で遊んだ経験が少ない学生は、ちょっと驚いたかも知れませんね。

この後、3-4人のグループごとに土地利用調査を行いましたが、効率的な調査をする経路を考えるのも結構アタマを使います。

7.長瀞での地形・地質観察

長瀞は日本地質学発祥の地と言われています。地質や河川の作る地形を観察しながら、長瀞駅から上長瀞駅までの区間を散策しました。

そして最後は、博物館見学でフィールドワークを締めくくりました。

写真は、巡検での調査風景です。「今日見たものは、その日のうちに復習!」が基本です。