写真判読法および実習

写真判読法および実習(選択科目/専門実践科目群)

写真判読とは?

地理の分野では様々な手法を使って地表の様子を調査します。写真判読もその手法の一つで自然地理・人文地理の分野を問わず広く用いられています。広い範囲を一度に調べることができるので現地調査へ行く前の事前調査にも用いられます。

最もポピュラーな写真判読は航空機に搭載したカメラから地表を撮影し、この写真から地形や土地利用を判読して地図を作成するというものです。このような写真を空中写真と呼んでいます。写真判読を用いると次のようなことが出来ます。

  1. 地図の作成
    道路や建物などの地物を判読し地図にします。国土地理院が発行している地形図も写真判読を用いて作成されています。
  2. 土地利用調査
    調査地域がどのように土地利用されているかを調査します。例えば水田と畑を見分け、さらに作付けしている作物まで判読することもあります。
  3. 地形の調査
    断層の位置や河成段丘の高さなど、いろいろな事を調べることが出来ます。地形は様々な部品で構成されますが(例えば山地では尾根、斜面、谷底など)、これを部品ごとに分類する作業を地形分類と呼んでいます。地形分類を地図にした地形分類図も空中写真の判読を用いて作成します。
  4. 災害調査
    日本は火山噴火や地震災害、水害など多くの自然災害にしばしば見舞われます。このような災害発生時にいち早く航空機を飛ばして空中写真を撮影し、これを判読して災害対 策に活かします。
  5. 時間と共に移り変わる景観の調査
    空中写真の撮影は1つの地域につき、1回の撮影だけではありません。国土地理院および都道府県の林務課では何年かおきに空中写真を撮影しています。年代の異なる同じ場所の写真を比較することで時間変化に関する調査ができます。土地利用の変遷や都市域の拡大などを知るには良い手法と言えるでしょう。

空中写真の種類

空中写真は撮影角度、画角(撮影したカメラ)、焼き付け方法などによって以下のように分類されます。

  1. 撮影角度による分類(垂直写真・斜め写真・鉛直写真)
  2. 画角による分類(普通角写真・広角写真)
  3. 焼き付け方法による分類(密着写真・引き伸ばし写真・モザイク写真)
  4. 感光材料による分類(白黒写真・カラー写真・赤外線写真・マルチスペクトル写真)

空中写真は航空機を飛ばしながら連続してシャッターをきり、撮影地域全域を撮影します。このとき、後で説明する立体視(実体視)をするために隣り合う空中写真は、その範囲の60%がオーバーラップするように撮影されます。空中写真は「標定図」と呼ばれる地形図に写真の撮影位置や写真の範囲を書き込んだ地図で管理されています。

現在、日本で利用できる空中写真には次のようなものがあります。大部分は垂直写真です。

  1. 国土地理院撮影
    撮影範囲は日本全国です。写真の縮尺は1/40000~1/12500で1960年代から撮影を開始しています。
  2. 林野庁および都道府県林務課撮影
    撮影範囲は山地部です。写真の縮尺は1/20000で、同じ地域を撮影した国土地理院の写真より縮尺が大きいです。1952年から撮影を開始しています。
  3. 米軍撮影
    第二次大戦直後に米軍が撮影した空中写真で、撮影範囲は日本全国です。縮尺は1/40000から1/10000です。撮影は1946年から1948年です。
  4. 官公庁および民間撮影
    各官公庁や民間会社が撮影した写真です。縮尺や撮影年次は様々です。

垂直空中写真の撮影では山の頂上など高いところはカメラ(航空機)に近く、谷底など低いところはカメラ(航空機)から遠くなります。当然、カメラに近い方が空中写真に大きく写ることになります。このため、空中写真の縮尺は写真上の全ての点で同じではありません。上で述べた空中写真の縮尺はおよそであることに注意して下さい。同様にカメラの真下(空中写真の中心点)と撮影範囲の縁辺部とでは空中写真の写り方が異なります。撮影範囲の端に行くほど写真に歪みが出るので、このことにも留意して作業する必要があります。

空中写真の立体視

撮影された空中写真は平面ですが「立体視」をすることによって、まるでジオラマを見るように立体的に見ることができます。「ステレオグラム」「飛び出て見える画像」「3D写真」などの言葉を聞いたことがあるでしょうか?これらはわずかに異なる画像を2枚並べて見ることで平面の画像を立体的に見るものです。人間がものを立体的に見るときには右目と左目で見たわずかに異なる映像を脳で合成して立体感を得ています。ステレオグラムなどはこの原理を応用して平面の画像を立体的に見せているわけです。空中写真の立体視も同様で左右異なる写真を並べて見ることで立体的に地表面を観察しているのです。このために、隣り合う2枚の空中写真は撮影範囲の60%が重なるように撮影されています。


写真1 反射実体鏡による空中写真判読

空中写真判読では直接目で写真を見る方法(裸眼実体視)と反射実体鏡と呼ばれる専用の機材を使う方法があります。反射実体鏡を使うと簡単に立体視することができ、さらに拡大レンズも付いているので細かな部分まで観察することが出来ます(写真1)。簡易実体鏡という拡大レンズのない、観察範囲が反射実体鏡と比べて狭い機材もあります。簡易実体鏡は小さくて軽いので現地調査で写真を判読するときには大変重宝します。

写真判読の実際

それでは空中写真を判読してみましょう。ここですぐに立体視するのは難しいかも知れません。そこで今回は斜め写真を用いた立体視をしない空中写真判読をして見ます。写真2と3は、バンクーバーからメキシコシティへ向かう飛行機の窓から撮影しました。

写真2を見ると地表面に筋のようなものが見えます。これは谷です。写真2に写った谷の一部を判読し、赤線を入れてみました(図1)。このように空から谷を見ると水系網がはっきりと見えます。もちろん、この写真では判読できない小さな谷もあります。そのような谷は現地調査に行って確認します。白い点線で囲まれた場所を良く見てください。丸い形が見えます。これはセンターピボットと呼ばれる灌漑方式を使っている農地です。その他の場所には四角いつぎはぎの様な模様が見えます。これはセンターピボットを使っていない畑です。

次に写真3を見てください。この写真には山地と平地が写っています。図2は簡単に判読した結果です。大まかな境界線を判読して黄色い破線を入れました。平地の部分を河が流れて、うねうねと蛇行していることが分かります。河の流れは赤で色を付けました。このような蛇行を自由蛇行と呼んでいます。谷幅が広く、河が自由に流れを変えることができると河は自由蛇行します。山地や平地、河が流れている位置から、平地の部分は自由蛇行している河が作った谷底平野であることが分かります。写真下側の山地と平地の境界線(黄色い破線)が山地側に大きく入り込んでいる部分があります。ここは支谷であると考えられます。谷底には写真1で見たような四角いつぎはぎ模様が見え、畑として利用されていることが分かります。

ここでは非常に簡単に空中写真判読をしてみました。実際には空中写真で判読したことを地形図に描き写し、ケースによっては現地へ実際に出かけて判読の補足調査を行います。逆に現地調査をしてから写真判読をすることもあります。重要なことは現地にある地物が写真にどのように写っているかを判読者がきちんと理解していることです。例えばネギ畑を判読するときに、最初から写真を見ても判読は難しいでしょう。しかし、空中写真を持って実際にネギ畑まで行くと写真にネギがどのように写っているかを知ることができます。これさえ知っていれば、ネギ畑の判読は簡単なのです。

最初に述べたように空中写真判読を使うといろいろなことが分かります。ぜひ皆さんも空中写真判読に挑戦してみてください。