担当教員:鈴木厚志(専門分野:地理情報科学・地図学)
最近、デジタル化された地図を活用する機会が増えてきました。「地理情報システム論および実習」の授業は、実際の地理情報システム(GIS)ソフトを使って、空間データと呼ばれるデジタル地図情報の利用法を習得します。この授業をとおして、学生は地図表現の基本、空間データの所在と活用法、地域分析法などを学んできます。
授業は以下のような内容となっています。
この授業は、地球環境科学部実験・実習棟内に設置された地理情報システムとリモートセンシング用の専用コンピュータ教室において行われます。授業は2時間連続、定員は40名です。担当の先生だけでなく、大学院生1名がTA(ティーチングアシスタント)として学生をサポートしますので、たくさん質問しても大丈夫です。翌週には提出しなければならない課題が毎回課され、おまけに最終課題までも。地理学科の中でもっともハードな授業の一つかもしれません。
では、学生の作成した課題をとおし、授業内容を覗いてみましょう。
‘埼玉県熊谷市万吉1700’という住所が直ちに地図上で表現できたらどんなに便利でしょう。分布図を作ることは意外と手間がかかります。アドレスマッチング(住所参照)とは、そのような夢を一瞬にして実現する便利な道具です。この授業では、東京大学空間情報科学研究センターのアドレスマッチングサービスを活用し、小学校や郵便局などの住所をもとにして分布図を作成しました。
A君の取り組んだ課題は、新潟県巻町(現在は新潟市)における学校と保育園・幼稚園、交番・警察の分布図です。分布図からみた学校と警察との関係を考察し、さらに写真をリンクさせたユニークな課題に仕上がっています。
テレビの天気予報の地図が見やすくなってきました。それは、土地の高低がとてもわかりやすいからです。土地の高低は、数値標高モデル(DEM)と呼ばれるデータを使用して表され、地球上の陸地すべてについて入手できます。この授業では、国土地理院の刊行する「数値地図50mメッシュ(標高)」というデータを使用し、地形の3次元表現にチャレンジしました。
K君は、埼玉県秩父地域の地形を2次元と3次元の地図で表現し、河川侵食の特徴を分析しました。また、数値標高モデルを使用した地形の2次元表現と3次元表現の特徴と限界にも考察が及んでいます。
農地が住宅へ、森林がゴルフ場へ。私たちの身の回りではさまざまな土地利用変化が発生しています。この授業では、これまでの空間データに加え、土地利用や道路・鉄道などのデータも使用し、地図化しています。
この課題を作成したS君は、東京の中央線沿線や羽田空港周辺の都市的な土地利用に着目しました。数値標高データで作成した陰影図に土地利用図を重ねており、山地部の地形も分かりやすく表現しています。地図に付けたコメントも的確です。
いよいよ最後の課題です。これまで習得した地図表現、データ処理、地域分析の方法をフル回転させ、GISを活用して一つの都道府県を対象とした地誌を書き上げます。どんなデータを使えばよいのか、どのように表現すればよいのか。学生たちは、大いに悩みました。
A君は和歌山県の地誌に取り組みました。この地図は、地勢を説明する地図として等高段彩図に河川の情報を重ね合わせ、中央構造線のとおる紀ノ川をはじめ、急流の多い紀伊山地西部の河川を上手に表現・説明しています。
N君は、宮城県の地誌です。人口を円積図で、人口密度は階級区分図によって表現しています。基本に忠実な表現です。これらの地図を用い、仙台市とその周辺地域における人口集積を説明しています。
「地理情報システム論および実習」は、単に地理情報システムの使い方を学ぶ授業ではありません。空間データの所在と正しい地図表現、そして自ら観察・調査したデータに基づく分析を大切にしています。地理情報システムを使いこなす技術や分析手法は、卒論作成はもちろん、社会でも大いに役立つはずことでしょう。